「働くひとの健康を世界中に創る」というビジョンを掲げ、健康管理システム『Carely』(ケアリィ)で日本のカンパニーケアを支える企業、iCARE。
日本では特に、働くことで引き起こされる健康リスクが大きな社会課題となっている。
週労働時間が49時間以上の割合は、主要先進7カ国の中で18.3%と最も多く(「令和2年版過労死等防止対策白書」厚労省)、労働生産性は、データが取得可能な1970年以降、主要先進7カ国中最下位の状況が続いている(「労働生産性の国際比較2019」公益財団法人 日本生産性本部)。
こうした日本の社会課題解決を図るべく、同社サービス『Carely』では、働く人の健康データを一元管理・蓄積し、一人ひとりの健康状態を経年で可視化することで予防措置を可能としている。
「データ化された健康情報の管理と、データに基づいた健康相談の両翼でサービスを提供しているのが弊社の特徴であり、その中枢を担うエンジニアは非常に重要な存在です」──そう語るのは、iCARE CTOを務める荻野淳也氏だ。
荻野氏に、iCAREの開発チームで働く魅力や組織体制、組織課題や今後の目標などを聞いた。
「ずっと文化祭の準備をしている」よう。その混乱を楽しみ、まとまりのある不思議な組織
──iCAREの開発組織について教えてください。
エンジニアは現在、社員、業務委託の方、合わせて約50名が在籍しています。
開発組織の構成は、機能ごとに4つの機能開発チームがあり、そこに運用グループであるオペレーションチーム、QAEチーム、SREチームが横軸として存在しています。
各機能開発チームの中には、フロントエンドのディベロッパーと、バックエンドのAPIを作るディベロッパー両方が所属し、また各チームを率いるリーダーが所属します。
また、各チームのリーダーの中で社歴が長く、ある程度実績のある人はマネージャーという肩書を持ち、組織全体の血流を見ています。マネージャーは、全体を俯瞰して見れるよう、チームを持たない人が就く場合もあります。
そして開発組織すべてを束ねる立場にあるのが、CTOの私とシニアマネージャーの岩崎、VPoE 安田の3人です。ちなみに私は、ディベロップメント本部の本部長も務めています。
──CTO、VPoE、シニアマネージャーの役割分担は?
チームを総括する立場という点では3名とも共通していますが、大まかな役割分担はそれぞれ決まっています。
私(CTO)は、Carely というプロダクトの開発の方向性や、採用、教育、広報などを一手に行なっています。
VPoEの安田は、開発が円滑に進んでいるかどうかを確認するために、開発組織全体のスケジュールや人的リソースの管理を行なっています。シニアマネージャーの岩崎は、定量的な情報の把握や、ディベロップメント本部に在籍する業務委託の方々のマネジメントなどを主に担当しています。
特に開発の組織全体をまとめる立場にあるVPoEと、テクノロジー全体の責任を担う私(CTO)は常に連携して仕事を行っています。
──開発組織の全体的な雰囲気は。
「ずっと文化祭の準備をしている」ような雰囲気があります。
iCAREにはいま全体で130人ほどの社員がいますが、採用面接の際には、よく候補者の方に「100人規模の会社だと思って来ると大変ですよ。うちの会社は雰囲気としては30人くらいの会社ですから」とお伝えしています(笑)
これは社員130人のうち、70人ほどがこの1年以内に採用されたメンバーであることも要因のひとつです。開発組織は特に、業務委託の方も含めると17人が半年以内に入社した人になります。
このように、いま急激に人数が増えているため少しバタバタしている面はあります。その雰囲気を楽しめる状態で来ていただかなければいけないため、候補者の方には最初にお伝えしています。
一方で、この急激な変化がある中でもその混乱を楽しめている雰囲気があり、会社全体で非常にまとまりがあることも事実です。
これは「働くひとの健康を世界中に創る」という目標に向けて、みんなで全力で取り組んでいこうという組織体制が非常にしっかり構築されていることが要因にあります。
「この人昨日より元気がない」──ちょっとした情報に感度良くありたい
──リモートワークの割合は。
現状では、各リーダーの判断で適宜最低週1日の出社日を設定してもらっていますが、あとは出社をするのもリモートワークにするのも自由、という形式にしています。
従来までは、「原則出社してお互いコミュニケーションを密にとって、最速で事業を進めていこう」というのが弊社代表 山田からの提言でした。現在は事業フェーズも進化して、それぞれの部門やチームに合わせて柔軟に働き方を選択しながら、スピードや効率を最大化していくということになっています。
──リモートワークにおける課題は何か感じられますか。
やはりコミュニケーションは圧倒的に難しくなると感じています。人やポジションによっては「どこで何が起きているか」がかなりわかりにくくなってしまうため、各リーダー陣に「チームの状況はどう?」と細かく聞くようにしています。
また、リモートワークだと「この人昨日よりも元気ないな」など、ちょっとした情報を掴むことが非常に難しく感じます。
社員の健康を第一に考える会社でもあるので、こうした些細な情報をわれわれ経営陣は意識的にキャッチしていきたいと常に考えています。このこともあって、現状ではリモートワークの割合は低くなっています。
──社員の意見を吸い上げたり、社員とコミュニケーションを取る機会はありますか。
私としては常に開かれた状態のつもりでいますが、こちらが待っているだけでは社員からの意見はなかなかもらえないなと感じています。そのため、定期的に1on1の機会を設け、社員とのコミュニケーションを意識的に行っています。
特に私は、2021年の3月に入社してから2ヶ月でCTOに任命されたので、CTOになった当初はまだ社内信頼を十分に築けていない状態でした。
VPoEの安田は社歴も長くて社内信頼もあったため、お昼休みにVPoEと私で扉の解放された部屋で待っていて、「ランチを食べながら何でも話しましょう」という名目のもと「CTO・VPoE オフィスアワー」を始めました。
最初の頃は面白がって何人も来てくれましたが、徐々に少なくなってきて、そのうちフェードアウトしてしまったので「わざわざ意見を言いに来るのは難しいんだな」と実感しました(笑)
こういった経験から、意見を待っているのではなく、こちら側から社員と対話をする場面を積極的に設けるようにしています。
CTOが感じる、候補者の「キラリと光るもの」とは
──若手やまだ経験値の浅い方の受け入れもされていますか。
はい。ジュニアからシニアまで様々なレベルの人を採用しています。
特に去年(2021年)の8月から12月までの間で集中的に、「経験は浅いけどキラリと光る才能がある」と感じた原石のような方を積極的に採用してきました。そのため現在は、そういった人材が何人か在籍しています。
──「キラリと光るもの」とは、具体的にはどんなものでしょうか。
私が面接官のときには、特に「胆力や意思力、やり切る力」を重要視しています。
こうした要素を持つ人であれば、他業種から未経験でエンジニアを目指す方でも採用しています。
あるメンバーは、他業種からのエンジニア転職で弊社がエンジニアとしては2社目だったのですが、面接時に「一人前のエンジニアになるまで地元九州には絶対に帰りません!」と決意を強く語っていて、そういう熱意は汲みたいですよね。
実際に彼女は採用後に、言葉だけでなくしっかりと実績を積み上げて、活躍しています。彼女の話は一例で、他にも他業種から採用した人が何人もいます。
採用の現場では何百人という人を見ていますが、先ほどの彼女のように、個々人のストーリーで胸に響くものを持つ人がたまにいらっしゃるので、たとえ未経験の方でもしっかりと話をして、弊社にマッチする人材を採用するようにしています。
──去年(2021年)に70人採用されたとのことですが、現在の採用状況はいかがですか?
現在も積極的に採用を行っています。特に開発組織に関しては、採用を抑えるといったことはまったくないため、応募は大歓迎です。
当たり前のことを当たり前にできるように。「押し付けの健康創り」はしない
──社内制度について教えてください。
どこの会社にもある制度を、誰もが当たり前に利用できるようにしています。
またエンジニアに限らず社内全体で、セルフケア休暇やチルアウト休暇など健康のために取れる休暇が非常に充実しているので、少しでも不調を感じたらこうした制度を活用して体調管理ができます。
また育児休暇に関しては積極的に推進していて、男性でも育児休暇をとっています。ちなみに弊社で初めて男性で長期育休を取得したのはデベロップメント部のメンバーでした。育休取得後に戻ってきて、活躍してくれています。
──評価制度について教えてください。
今年(2022年)2月より、新たな人事制度として「ファイブリングス・チャレンジ」を導入しました。
これは会社側が社員一律で実施する「押し付けの健康創り」ではなく、チームと事業が持続的に成長するために、週2時間を使って社員それぞれが主体性を持って「働くひとの健康創り」のための企画を立案しチャレンジできる、新しい人事制度です。
具体的には、「Carelyファイブリングス」に規定された5つのリング「安全と衛生」「健康増進」「働きやすさ」「働きがい」「生きがい」の中のどれかに対して、自身の時間の5%を使ってコミットする制度です。これをいま全社一丸となって行っています。
他にも、近年人数が大幅に増えたこともあり、文化的な面の評価軸をきっちり数値化するなど、定量的な評価制度に徐々に移行してきています。
健康市場が持つ大きな可能性、2月には大型資金調達も。成長の肝は開発組織に
──荻野さんが思う同社で働く魅力は何ですか。
「働くひとの健康を世界中に創る」という共通目的のために、みんな意識を揃えて一丸となって取り組んでいる環境があり、そこで得られるやりがいはとても大きく、弊社の一番の売りでもあります。
ここ最近では、未経験や経験の浅い方が仲間になっていることもあって、必ずしも洗練された技術が現状あるわけではないかもしれません。ですが、周りと一緒に技術や能力を磨きながら、会社とともに大きく成長していける環境があることを、特に若い方に対しては強くお伝えしたいです。
経験者やミドル層の方に対しては、弊社が持つウェルビーイング市場は今後急拡大していくことが予想され、その市場の中で働くやりがいは大きいものであることをお伝えしたいです。
ウェルビーイング市場はSDGsなどの社会的な流れとも合致して、日本でも企業の投資額はさらに増えていき、今後400兆円ほどの市場が爆発的に生まれると言われています。
特に弊社は独特なサービス形態で、これまでは他に類を見ないサービスでした。そのため、あまり知られていないながらも知ってくださったお客様にはずっと気に入ってもらえるサービスとして、じわじわ広まっていきました。
大きな可能性のある市場の先頭を切って始めたという自負のもと、今後それを大きく拡大していくことはかなりやりがいのある課題だと思います。
──iCAREの今後の目標について教えてください。
時期はまだ明言できないですが、近い将来に上場を目指しています。社内では具体的な動きが進んでいる状態です。
特に外からも見える動きとしては、今年の2月に大型の資金調達をしまして、これに関して経営陣からのメッセージをnoteで連載しました。私も、今後注力していきたいこと3つをnoteに明言しました。今後の弊社の目標や動向がわかる内容なので、もしiCAREに興味があれば見ていただければ嬉しいです。(荻野CTOの2月資金調達に関する今後の目標 by note)
──iCAREにとってエンジニアとはどういう存在ですか。
弊社はエンジニアを約50名抱える一方、産業保健に関わる資格を有する社員が10名以上在籍する企業でもあります。
産業保健のプロであり、システムのプロでもあるという二面性が弊社の特徴であり、肝となる部分です。
その中枢を担うエンジニアの存在はとても大きく、エンジニア社員にはいつも「事業も企業文化もすべてわれわれから発信しよう」という「デブ・ドリブン」を発信し続けていて、社内全員がこれを意識しています。
そのため、エンジニアとして仲間に入ってくれる人全員にもこのクレドを話していますし、メンバーにも定期的に発信して「仕事をする意義やパッションを感じながら」働いてもらうことを意識しています。
──最後に、一緒に働きたいエンジニア像を教えてください。
会社自体もこれから急成長していきます。会社の成長と重ねて個人も急成長していくことが求められます。
弊社には大きな目標があるので、その目標に向かって、仲間と共に全力を尽くしたいと感じてくださる方に来てもらえたらとても嬉しいです。
株式会社iCARE CTO / Development本部長 荻野 淳也さん
東京都立大学理学部数学科卒、同大学大学院理学研究科数学専攻修士課程修了(博士課程単位取得退学)。 学生時代のアルバイトから始まって25年以上、スタートアップから一部上場企業まで、途中何回かの起業経験も挟みながら幅広くソフトウェア開発に関わる。また、2015年から現在まで小さなコーヒー店を経営する喫茶店主でもある。
2021年3月iCARE入社、同年5月より現職。
インタビュー・文:koko
写真:遠藤麻美